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東京地方裁判所 昭和62年(特わ)779号 判決

本籍

東京都文京区湯島三丁目一三番地

住居

同都文京区湯島三丁目二番四号

会社役員

塚本恭子

明治三六年四月七日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金二〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都千代田区外神田四丁目一四番一号東京都中央卸売市場神田市場内において「伊藤」の名称で青果仲卸業を経営していたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五七年分の実際所得金額が四四一〇万四三八九円あった(別紙一の(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五八年三月三日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄神田税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が五九五万八一八五円でこれに対する所得税額が九四万四五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六二年押第五三〇号の3)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額二一〇二万四六〇〇円と右申告税額との差額二〇〇八万〇一〇〇円(別紙二の(1)脱税額計算書参照)を免れ

第二  昭和五八年分の実際総所得金額が六二五一万六六八三円あった(別紙一の(2)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和五九年三月一四日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が七五八万二八一二円でこれに対する所得税額が一四〇万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三三〇七万七四〇〇円と右申告税額との差額三一六七万〇四〇〇円(別紙二の(2)脱税額計算書参照)を免れ

第三  昭和五九年分の実際総所得金額が六二五九万九七六〇円あった(別紙一の(3)修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六〇年三月七日、前記神田税務署において、同税務署長に対し、同五九年分の総所得金額が九四八万三八八〇円でこれに対する所得税額が二八七万六五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三一六二万五〇〇〇円と右申告税額との差額二八七四万八五〇〇円(別紙二の(3)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の

(1)  当公判廷における供述

(2)  検察官に対する供述調書三通

一  井沢雄藏、木内孝(昭和六二年一月二二日付)、北澤直人、伊藤裕康(二通)、伊藤幸子の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の調査書(とくに、別紙各修正損益計算書の各勘定科目ごとの当期増減金額の内容につき)

(1)  売上金調査書

(2)  受取奨励金調査書

(3)  旅費交通費調査書

(4)  修繕費調査書(判示第二の事実)

(5)  福利厚生費調査書

(6)  給料賃金調査書

(7)  支払奨励金調査書

(8)  委託手数料調査書(判示第三の事実)

(9)  雑費調査書

(10)  青色専従者給与調査書

(11)  青色申告控除額調査書

(12)  事業専従者控除調査書

(13)  事業主報酬調査書(判示第三の事実)

(14)  みなし法人所得額調査書二通(判示第三の事実)

(15)  配当所得調査書(判示第三の事実)

(16)  みなし法人税額調査書(判示第三の事実)

(17)  給与所得調査書(判示第三の事実)

(18)  配当控除調査書(判示第三の事実)

(19)  医療費控除調査書

(20)  現金調査書

(21)  預金調査書

(22)  割引債券調査書

(23)  大蔵事務官作成の証明書

一  検察事務官作成の捜査報告書三通

判示第一の事実につき

一  押収してある昭和五七年分所得税の確定申告書等一袋(昭和六二年押第五三〇号の3)、同昭和五七年分の所得税の修正申告書等一袋(同押号の4)、同五七年分所得税青色申告決算書一袋(同押号の8)

判示第二の事実につき

一  木内孝の検察官に対する昭和六二年三月一三日付、同年三月一七日付各供述調書

一  押収してある昭和五八年分の所得税の確定申告書等一袋(同押号の2)、同昭和五八年分の所得税の修正申告書等一袋(同押号の5)、同五八年分所得税青色申告決算書(同押号の7)

判示第三の事実につき

一  林田大の検察官に対する供述調書

一  押収してある昭和五九年分の所得税の確定申告書等一袋(同押号の1)、同五九年分所得税青色申告決算書(同押号の6)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、情状により同条二項を適用したうえ懲役刑と罰金刑を併科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で、罰金刑については同法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内において、被告人を懲役一〇月及び罰金二〇〇〇万円にし、同法一八条により被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、同法二五条一項により被告人に対しこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の事情)

本件は、東京都中央卸売市場神田市場内において「伊藤」の名称で青果仲卸業を経営していた被告人が、売上の一部を除外するとともに架空仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿して、三年間にわたり合計八〇四九万円余りの所得税を脱税した事案であって、そのほ脱金額はかなり多額であるうえ、税ほ脱率も通算で九三パーセントを超える高率であること、被告人の通常の営業形態は神田市場内にある卸売三者から仕入れた蔬菜類を鑑札を有する小売業者に販売するもので、代金の受け払いが被告人の所属する組合を通じてコンピューター処理されるため組合に把握されている反面、店頭で行われる現金授受を伴ういわゆる現金売上や神田市場外からの仕入れは組合を通さず同組合にその状況が把握されないため、被告人は、右組合に把握されない現金売上部分を除外したり、架空の場外仕入を計上して本件各年度の利益を調整していたものでその所得の秘匿の手段・態様は計画的かつ大胆であって犯情は芳しくなく、この種事案の罪質を併せ考えると被告人の刑責を軽視することは許されない。しかしながら、その犯行の動機は神田市場の大井移転の話を聞き及んだ被告人が自己の年齢・健康状態の悪化から被告人自身はもとより家族や従業員の将来に不安を覚え、これに備えるためとの面があったと窺われる点で、酌むべきところがないではないこと、被告人が本件の非を反省し、脱税の結果についても修正申告のうえ本税・附帯税の全てを完納し、昭和六〇年には事業を法人成りさせて経理や税務申告につき誤りのないようにする旨誓っていること、被告人には前科や犯歴はないこと、被告人の年齢・健康状態等被告人のために有利な又は同情すべき事情も認められる。

以上のような本件の動機・経緯・態様・結果・被告人の反省状況・身上等を総合勘案し、被告人に対しては、主文掲記の懲役及び罰金に処し、懲役刑については相当期間刑の執行を猶予するのが相当であると認められる。

(求刑 懲役一〇月及び罰金二五〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

検察官井上經敏、同千田恵介、弁護人羽尾芳樹各出席

(裁判官 中野久利)

別紙一の(1)

修正損益計算書

塚本恭子

自 昭和57年1月1日

至 昭和57年12月31日

〈省略〉

別紙一の(2)

修正損益計算書

塚本恭子

自 昭和58年1月1日

至 昭和58年12月31日

〈省略〉

別紙一の(3)

修正損益計算書

塚本恭子

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

〈省略〉

別紙二の(1)

脱税額計算書

57年分

〈省略〉

別紙二の(2)

脱税額計算書

58年分

〈省略〉

別紙二の(3)

脱税額計算書

59年分

〈省略〉

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